※大会規定により、8回・9回・10回は１死満塁のサドンデスを実施

優勝戦実況

それがいい試合であればあるほど、いつまでも終わってほしくないというぜいたくな欲望が見ているものには起きる。延長９回を終えて２-２の同点でいまだ決着を見ない展開に観客席から自然に拍手がわいた。まだどちらかを勝者にしたくない、どちらも敗者にしたくない。この日詰め掛けた観衆すべてが皆、そう思っていた。ＣＨＯＴＴＯ ＣＨＩＧＡＵＺＯ・阿部と吉岡クラブ・望月、互いに譲らぬ鬼気迫る投げ合いは、それほど見ているものを熱くさせる素晴らしい投げ合いだった。両投手とも、「序盤から延長戦が頭をよぎった」と口を揃えるほど、その投げ合いは質が高かった。ただし、サドンデス方式の延長に入るとさすがにピンチとチャンスが両者に互いに訪れ、サドンデスの緊迫感が起伏する。そして試合は優勝戦史上最長の延長10回までもつれ込んだ。 　参加128チームが、アークカップの頂点を目指して戦った2008年の夏。19回を数える大会の優勝戦の晴れ舞台に残ったのは、昨年も準優勝まで駆け上がったＣＨＯＴＴＯ ＣＨＩＧＡＵＺＯと初めて優勝戦まで勝ち進んできた吉岡クラブだった。 ▲小春日和に恵まれ、絶好のコンディション 　ＣＨＯＴＴＯ ＣＨＩＧＡＵＺＯは、ここ３年で２度の準優勝と、優勝まであと一歩の歯がゆいところでの敗戦が続いていた。吉岡クラブを攻略するには、何といっても屈指の右腕・望月を打ち崩さなければならない。望月は威力十分の直球に鋭く落ちるフォークを駆使し、準決勝までほぼ完璧な投球を続けていた。しかし、ナインは決して悲観的ではなかった。大舞台で普段通りにやることがいかに難しいかも知っている。そこで勝つことがどれほどの価値を持つかも十分すぎるほど分かっている。これまで手にすることができなかった、まだ見ぬ栄光の座へかける想いだけは絶対に負けない。優勝に王手をかけながらも苦杯をなめ続けた経験が、今となっては何よりの財産になっていた。 　一方の吉岡クラブ。近年大幅にメンバーの入れ替えがあったとはいえ、大会前の下馬評はあまり高くはなかった。カギを握るエース・望月は今大会絶好調とはいえ、相手はベテラン打者が多く揃うＣＨＯＴＴＯ ＣＨＩＧＡＵＺＯ。ある程度苦戦するのは覚悟の上マウンドに登った。また打線も、相手はここまで気迫の投球で相手打線を抑え込んできた右腕の阿部。さらに経験豊富な左腕・春日も控えるなど、ＣＨＯＴＴＯ ＣＨＩＧＡＵＺＯの投手層は厚い。この強力投手陣に吉岡打線がどう挑むかも注目されていた。 ▲優勝戦に臨む両軍のスターティングオーダー 　ここまでの勝ち上がりを見てみると、両者の実力は甲乙つけがたくまったくの互角。しかし逆に言えば、投打ともども真っ向からぶつかっていける最高の精神状態だった。11月30日、午後12時10分、決戦の火蓋は切られた。 ▲バント失敗で走者を３塁に進められない 　初回、ＣＨＩＧＡＵＺＯは１死から２番・清水が三遊間を破るヒットで出塁するが、２死後盗塁失敗でチャンスを潰し無得点に終わる。対する吉岡クラブもその裏、先頭の渡辺（啓）がレフトへヒットを放つと、思い切った走塁で一気に２塁を陥れ、いきなり無死２塁の絶好の好機を作る。しかし、ここで次打者の２番・只木はバントを試みるが２度失敗に終わり、結果は投手ゴロ。３塁を狙った２塁走者がタッチアウトとなり、その後後続も倒れ、結局この回は無得点に終わる。

一方のＣＨＩＧＡＵＺＯは２回にもチャンスを作る。この回先頭の４番・米山（貴）がレフト前ヒットで出塁。続く５番・長津の送りバントが捕手のフィルダースチョイスを誘い、無死１・２塁と絶好の先制機を迎える。しかし、ここは吉岡クラブ・望月が後続を抑え、何とか無失点で抑える。 　ＣＨＩＧＡＵＺＯはさらに５回にも最大のチャンスを迎える。この回先頭の６番・春日がライトオーバーの特大３塁打を放ち出塁。無死３塁となったところで、さまざまな攻撃の選択肢が広がった。しかし、次打者の７番・天野が投手ゴロでまず１死。その後、スクイズを警戒してか、望月の制球が突如乱れ、ボール先行で８番・三鴨、９番・斉藤が連続四球で歩き、１死満塁とチャンスを広げるが、期待された１番・宮崎が三振。２番・清水もセカンドゴロに倒れ、ＣＨＩＧＡＵＺＯはどうしても本塁が奪えない。 　さらにＣＨＩＧＡＵＺＯは６回にも大きなチャンスを迎える。３番・阿部がセンター前ヒット、４番・米山（貴）が四球で出塁したあと、５番・長津がきっちり送り、１死２・３塁とまたまた先制のチャンスを作る。ここで迎えた打者は、先ほどの打席で特大３塁打を放った６番の春日。１塁が空いていることもあって敬遠も予想されたが、カウント０-２からの３球目にＣＨＩＧＡＵＺＯはスクイズを慣行。しかしこれを吉岡クラブバッテリーが見事に外し３塁走者が憤死。結局春日もフルカウントから三振に倒れ、ＣＨＩＧＡＵＺＯはこの回も大きなチャンスを逃した。 ▲５回満塁のピンチを脱した吉岡バッテリー ▲６回、エンドランの奇襲を外され・・・ ▲ＣＨＩＧＡＵＺＯはまたしてもチャンスを逃す

▲結局、７回を終え決着はつかず延長戦へ 　中盤やや押され気味だった吉岡クラブの反撃は５回。１死から６番・大木が左中間を破る２塁打で出塁。内野ゴロで３塁まで進めるが、迎えた８番・戸谷が３塁ファールフライに倒れ、吉岡クラブも好機を生かせない。７回にも１死から４番・菊池が相手エラーで２進し、一打サヨナラのチャンスをつかむが、後続が打ち取られ１点が奪えない。結局、試合はこのまま７回を終わって双方無得点で終了。８回からは１死満塁で始まるサドンデス方式による延長戦に突入した。

８回表ＣＨＩＧＡＵＺＯは３番・阿部からの打順を選択。阿部は期待に応え、右中間に犠牲フライを打ち上げ、ついに勝ち越しの１点を奪った。その裏吉岡クラブも３番・左右田から始まる打順を選択。左右田は３塁前にボテボテの当たりを放つ。しかしこれを３塁手が捕れず３塁走者がホームイン。１-１の同点に追いつき、さらに１死満塁という絶好のサヨナラの好機が続く。次打者の４番の菊池が放った当たりはセンターへのフライ。一瞬犠牲フライでサヨナラかと思われたが、風で若干打球が戻され、３塁走者が本塁へ突入できず２死。続く５番・中野も内野ゴロに倒れ、吉岡クラブは同点止まりでこの回の攻撃を終了する。 ▲３番阿部の犠飛でＣＨＩＧＡＵＺＯが先取点

▲押し出し四球でＣＨＩＧＡＵＺＯが勝ち越し ▲吉岡はここでもサヨナラ機を生かせない 　９回の表ＣＨＩＧＡＵＺＯは１番・宮崎から始まる打順を選択。宮崎はカウント２-３からの高めに浮き上がるボールを良く見極め押し出し四球を選び、１点を勝ち越し。なおも１死満塁と追加点の好機が続いたが、ここは吉岡クラブ・望月が気迫満点の投球で次打者以降を三振、内野ゴロの打ち取り、最少の１点で抑えサヨナラに望みをつないだ。 　その裏吉岡クラブは再び３番・左右田から始まる打順を選択。左右田がカウント２-１からの４球目を叩くと、打球はショート前に転がるまたしてもボテボテの当たり。しかしこれをショートがうまく捕れず、ラッキーな形の内野安打となり、再び２-２の同点に追いつく。続く４番・菊池は３塁ゴロで本塁封殺。２死満塁となったあと、迎えた５番・中野の当たりはショートを襲うゴロ。これをショートがファンブルし一瞬吉岡クラブのサヨナラかと思われたが、ショートが踏ん張って１塁へ送球。間一髪でこれを刺し、結局この回は同点止まり。２-２のまま、試合はついに延長10回に突入した。

延長10回の表ＣＨＩＧＡＵＺＯは、またまた１番・宮崎から始まる打順を選択。宮崎は昨年“ミスターサドンデス”の異名をとり、サドンデスには滅法強い選手として名を馳せた。ここで宮崎はカウント１-２からの４球目をしぶとくライト前に落とすタイムリー。ＣＨＩＧＡＵＺＯがみたび１点を勝ち越し。次打者以降は倒れたが、３-２と１点をリードした。 　その裏の吉岡クラブはそれまで同様、３番・左右田から始まる打順を選択。過去２イニングこの左右田が出塁し同点に追いついている幸運な打順だったが、今回は左右田が投手ゴロに倒れ本塁封殺となり２死。続く期待された４番・菊池はセカンドゴロに倒れ、ついにゲームセット。３-２でＣＨＯＴＴＯ ＣＨＩＧＡＵＺＯが延長10回までもつれ込んだ熱戦を制し、悲願のアークカップ初優勝を決めた。 　試合後の閉会式でＣＨＯＴＴＯ ＣＨＩＧＡＵＺＯの野上監督にアークカップが贈られ、第19回大会の熱戦の幕が下ろされた。 ▲ＣＨＩＧＡＵＺＯが延長10回の死闘を制した ▲ゲームセットの瞬間、崩れ落ちた吉岡ナイン

▲念願の初Ｖを決め、宙に舞う野上監督 　優勝したＣＨＯＴＴＯ ＣＨＩＧＡＵＺＯは、ここ４年で実に３度目の優勝戦進出の末、ついにつかんだ初めての頂点。ナインの表情を見ていると、苦しんだ分、喜びもひとしおといった感じであった。一方の吉岡クラブは、決勝戦でこそ敗れはしたが、最後の最後までＣＨＯＴＴＯ ＣＨＩＧＡＵＺＯに食らいつき好勝負を演出。その戦いぶりは、賞賛に値するものだった。大会屈指の右腕・望月を先頭に、ナインは精一杯戦った。「今日は気持ちを込めながら投げられたので、悔いはないです」と、望月の表情も晴れやかだった。